アグネスタキオン

アグネスタキオン

白衣は好きだ。汚れが目に見えて分かるから。白衣はごまかさない。だから、わたしは、潔白を保っていられる。のだ。
そう書いた日記を破いて薬品の中に放り込む。蛍光色の液体にシュワシュワと溶けゆく紙。それをまじまじと眺めながら、ああ、こんなふうに消せたらいいのに、と思った。

何を?

押入れが、ある。
昔の昔の昔の昔の昔にとうに固く固く固く固く封じたはずの、押入れが、ある。あの暗い暗い暗い暗い空間から、じわりじわりと液体が染み出ていくのが、わかる。まるで水が洞窟を穿つかのように。
逃げ場がない。じわじわじわじわと擦り寄ってくるその真っ黒な液体は、もう、喉の奥まで迫って来ている。わたしは溶けきった紙が泡になってしまったのを眺める。羨ましいものだ。外界のものならこんなに簡単に消せるというのに。

椅子に三角座りをし、白衣を垂らして背を丸めるわたしのことを、ひとは天才だとか言うらしい。だったらこれは何だ。いったいこれは何なんだ。頭をかきむしったら、クラスメイトは嬌声をあげた。ふざけるな。

何かが間違っているというのか?この私が?白衣は今日も染み一つないというのに。全ては計画通りだ。立てた仮説は概ね裏付けられていて、あとはいくつかの追試を行うだけだった。この通り、何も心配することはない。全ては円滑にスムーズに滞りなく進んでいる。

ポタ、ポタ、
口から黒い液体が溢れている。それに気づかなかったのは、おそらく三徹して実験に取り組んでいたからで、要するにこれは私の努力の代償なのだから何も問題はない。何も問題はない。すべては滞りなく進んでいる。いくつかの実験は手法に改善の必要が生じたが何も問題はない。
ポタ、ポタ、
黒い液体は脳に染み込んでいる。しかし何も問題はない。何も問題はなく、何も問題はない。何か問題があるだろうか?いや何も問題はない。
ポタ、
黒い液体は眼球を浸して目の前を真っ暗にしたが、何も問題はない。何も問題はない。何も問題はない。何も問題はない。